月のかけら

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月のかけら ~第一章その2~

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月のかけら~第一章
~目次~



第一章 その2

 甘い香りが広がってくる。僕の目の前に、少し茶色の長い髪が揺れている。裾の長めの桃色のTシャツ。茶色のキュロットパンツ。黒い肌着を下に着ているようで、肌の露出は少ない。服の上からでもわかる大きめの胸に、引き締まったウエストは、綺麗な女性らしいラインを見せている。女性は、壊された民家の壁に寄りかかりながら、周りを見ている。
僕は、女性の長い髪が風に揺られる姿を視界の端に捕らえながら、目の前に描かれたホログラムキーボードを、素早く叩く。頭の中で考えたことが、入力される思考入力が一般的な時代。このホログラムキーボードを使っている僕は、ちょっと古いのかもしれない。でも、僕は指で叩いたキーが、ホログラムディスプレイに表示される感覚が好きで、なかなか思考入力に慣れることが出来なかった。
必要な情報を一通り入力すると、数秒後、ホログラムディスプレイに図形が表示される。日本の形が表示され、赤い四角い枠が日本の中心を指し示すと、一気に拡大が始まる。日本から関西、関西から京都府、市内、市町村区、詳細地図へと、次々と図形が拡大される。そして、僕がいる場所の立体地図が表示される。立体地図が表示されると、ちょうど、僕の前にいる女性が後ろを振り返る。
「ちょっと、龍也。私にも見えるようにしてよ」
僕が見ているホログラムディスプレイとホログラムキーボードは、通常は僕以外に見ることが出来ない。何もない空間に手を添えてキーボードを入力している姿は、他の人から見ればおかしな姿だろうと思う。
「あっ、ゴメンゴメン」
僕はそう言うと、ホログラムディスプレイを不可視モードから、通常モードに切り替える。僕を中心に直径3メートル程の半透明の球体が現れる。この半透明の球体を僕達は、スフィアフィールドと呼んでいる。現実世界の解析情報を、目の前の風景の上に重ねて、表示する。例えば、目の前に危険物があると自動的に物質を解析。スフィアフィールドに解析情報を表示する。解析は人物や音声にも適応される。人なら名前や所属が表示され、友達ならプライベートの情報も知ることが出来る。音は人の言葉なら、翻訳された音声や、翻訳された文書をポップアップ表示が可能だ。今、見ているホログラムディスプレイに表示されている立体地図も、スフィアフィールドの機能のひとつだ。
この表示をする可能とするシステムをAiS<アイス:Active infonation sifia>と呼んでいる。一昔前にAR、拡張現実と呼ばれて技術を発展させた物だ。昔は、パソコンに繋いだカメラから見える映像に、情報を重ねるだけの単純なものだったが、今使っているAiSは、空間、音、赤外線、気温、磁気、GPS情報など、センサーに捕らえられる情報なら、すべて解析。そして、解析した情報をディスプレイや、眼鏡を通して表示するのではなく。今、見ている現実世界に、上書きを出来る。もちろん、無限に解析情報で、現実世界を上書き出来るわけではなく、スフィアフフィールド内に限定される。
欠点は、情報を得るためのセンサーリングを体につける必要がある。通常の生活なら、首に取り付けるか、両手首に取り付けている。このリングセンサーから得られた情報を小型端末で解析して、再び、リングセンサーから情報を投影している。そのため、センサーリングを死角が出来ない位置に、複数身につける必要があり、身につける場所に寄っては、違和感がある。
女性の場合は、髪型にあわせてポニーテールのリボンにしたり、イヤリング、ブレスレット、アンクルなど、一工夫する子が多い。飾り気のない白色のリングは、女性には物足りないらしい。
センサー情報を処理する情報端末は、小型の手のひらサイズ。ズボンのポケット、ストラップをつけて、首にぶら下げたりしている。情報端末としての処理能力は、化け物級だが、それでも空間認識は荷が重い。認識範囲が自分を中心に直径5メートルまで。拡張情報を表示するスフィアフィールドと、電池の容量とのバランスをとると、3m程度が実用範囲。それでも、フル稼働での長時間運用は難しい。
「反応は、生体反応がふたつ」
女性は立体地図をのぞき込むと、僕に聞いてくる。
「場所はあってるの」
地図には、大きな片側三車線の道に、住宅街とショッピングセンター、マンションが表示されている。しかし、僕の目の前にある風景は、ショッピングセンターらしき建物があるだけで、辺りは焼けこげたコンクリートの瓦礫。住宅街と思える場所は、倒壊、破壊された家しか見えず、立体地図の場所とは思えない風景が広がっている。女性は立体地図と後ろの風景を見比べると、怪訝な表情をみせる。
「今は、GPSの座標が拾えてるから、場所は間違いないよ。地図にあるショッピングセンターが目の前の建物」
確かに、GPS衛生からの信号は、日が経つごとに減ってきている。GPS衛星が、かなり破壊されたこと。変わりの衛星を打ち上げる国もない現状では、まともに使えるGPS衛星が少ない。でも、幸い、今は五つのGPS衛星から信号を受信できている。僕は確信を持って、大丈夫と返事する。
「そうなんだ」
僕の言葉に女性は、淡々と返事をする。
「猫や犬ではなさそうだけど、これ以上の情報はスキャン出来ないよ」
「どうしてよ。いつも僕に見えないものは無いって言ってるくせに」
「そうなんだけど・・・」
僕は理由を言おうとして、口ごもる。
一年前の事件、『月のかけら』から、地球の環境は大きく変わった。隕石による直接的な被害、有害物質を含んだ雨、地球の磁場の変化、青空は時折、虹の様に変化し、夕焼けも、虹のように七色に変化している。僕は言い訳をしても、仕方がないと思い直すと、再び女性を説得する。
「美喜、今日はやめておいた方がいいんじゃない」
「でも・・・」
「ここの辺りは、先週、仲間が襲われた場所に近いし、その時の状況と似ているよ」
「でも・・・ね」
美喜は、両手を顔の前であわせると、ちょっとだけ、お願いと僕に言ってくる。
「生体反応があって、生き残ることが出来そうな状況。食べ物や飲み物がありそうなショッピングセンターだけど、あの事故から一年・・・可能性は低いよ」
「でも、ゼロじゃないよね。それに私達の目的は?」
美喜は真剣なまなざしで、僕に言ってくる。確かに僕達の目的は、この街での生存者の捜索。瓦礫の山になった街に生き残った人がいないか、くまなく探している。あの事件の直後は、瓦礫の下の生存者を探していた。しかし、あの事件から一年、今は瓦礫の下から人が見つかることは無い。
生き残った人が、数人グループを作って街の隅で見つかったり、一人で街をさまよったりしている人を保護している状況だ。それに、秩序が守られている事は少なく、暴徒化していたり、正気を失っている事が多かった。
「それは、わかるけど、目的の場所は捜索したし、AiS<アイス>の電源も残り少ない。報告を上げて、他のメンバーに依頼してもいいんじゃない」
「でも、明日じゃ、間に合わないかもしれない」
美喜はホログラムディスプレイの赤く点滅している点を指しながら言う。生体反応ならば、人の可能性もある。
「それに、月の雨の予報も出てる」
「月の雨なら、何とかなるでしょ・・・。けど、この反応は明日には消えてるかもしない」
もしも、人なら早く助け出してあげたいと、美喜は思っていた。
僕は、美喜の気持ちを考えると、捜索することには反対するつもりはなかったが、やはり、この状況に疑いを感じていた。生き残れる可能性が見て取れる状況に、生体反応がふたつ、その反応はショッピングセンターの建物の中。先週の事を考えると、罠の可能性が高い。そう考える自分が嫌になりそうだったが、今は、臆病になることが生き残るコツだ。
少なくなった食料や資源を、力ずくで奪ったり、殺人にまで発展する事が多々起きている。用心する事にこしたことはない。そして、月の雨。雨が降ると、僕達の行動は制限される。雨が降る前に自分たちの街に戻りたいと思っていたが、美喜が、一度決めたら曲げることはないだろうと、僕は、腹をくくる。


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 (新)小説 月のかけら

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